保険と自費の違いについて~その2 保険診療の問題点
1.日本の健康保険制度の仕組み~「現物給付」と「出来高払い」
今回は現在の保険診療の問題点について詳しくお話しします。まず、生命保険や火災保険といった、いわゆる「保険」を思い浮かべて下さい。これらの保険は、通常保険契約者と保険会社が契約を結び、その契約額に応じて月々の保険料を保険会社に支払い、何らかの災害を受けたときあるいは保険が満期になったときに、その契約に応じた保険金を契約者が受け取れる仕組みになっています。
それでは日本の健康保険制度はどうなのでしょうか。日本はご存知のように「国民皆保険制度」をとっていますので、原則としてすべての国民が「社会保険」か「国民健康保険」に加入しています(被保険者といいます)。そして保険の種類を問わず、その収入などに応じて被保険者は保険組合や自治体(保険者)に保険料を納めます。 そして被保険者が病気になったとき、受け取るのは「保険金」ではなく「医療そのもの」なのです。これが「現物給付」といわれている健康保険の特質です。医療を給付するのは医師ですから、「保険者」は医師でなくてはなりません。ところが現実問題として医師が医療行為と同時に医療事務を行うのは不可能であるため、保険者は医師を雇い入れ病院や診療所を作り、そこで被保険者の診療に従事させるという形態をとります。「社会保険○○病院」とか、「○○共済組合病院」といった名称の病院はいずれもこのような趣旨で作られ、そして現在の健康保険制度に最も合致した診療形態でもあるのです。しかし、この方法ですべての被保険者に医療を給付するのも現実的ではありません。そこで、保険者は全国で自由に診療している医師と契約を結び、自分の代わりに保険者に医療を給付してくれるよう依頼するという方法をとることになります。この依頼を受けた医師を「保険医」と呼びます。保険医は被保険者に医療という「現物」を「給付」し、その対価として保険者から「代金」を受け取るのです(一部負担金という形で被保険者からも受け取ります)。これが「出来高払い」といわれている健康保険のもう一つの特質なのです。病気や医療には様々な種類がありますから、それらを規定する「料金表」あるいは「メニュー」といった性質のものを作らなければなりません。そしてこれらを作る機関が厚生労働省であり、その責任者が厚生労働大臣という訳です。こうしてできあがった「メニュー」が、いわゆる「健康保険の枠」であり、前回ご説明した自費治療の一部はこうした枠からはずれているものなのです。「枠」は別の意味で「制限」といえます。後述しますが、日本の健康保険制度の大きな柱である「現物給付」と「出来高払い」が、実は治療に大きな制限を作り、その結果本来あるべき医療の姿が歪曲されているといえなくもないのです。
2.「現物給付」の問題点
日本の健康保険制度が現物給付が基本となっており、厚生労働省がその「メニュー」を作製していることは先程述べました。ここで問題となるのは、その「メニュー」を作る際の基準でしょう。その時代の先端を行く高度な知識や技術に裏打ちされた医療行為は常にこの枠内には入らないし、単に経済的な理由で枠からはずれる行為や薬剤もあります(特に最近は医療費の抑制を政府は目指していますから)。
ここで先程の「保険者」、「被保険者」、「保険医」の3者の関係を思い出してください。「保険者」と「被保険者」は契約を結び、同じく「保険者」と「保険医」も契約を結んでいます。ところが、「被保険者」と「保険医」との間にはそのような契約はなく、そこにはただ単に「医師」と「患者」の関係が存在するだけです。患者が同意するなら、医師は保険の「枠」にとらわれることなく、ベストを尽くして治療に当たるのは当然の責務といえます。患者のことを第一に考え、誠実に診療に従事している医師の診療行為が、しばしば保険外となってしまうのはある程度やむを得ないのではないでしょうか。「安くもない保険料を毎月納めてるのに、保険が利かない治療があるなんてけしからん」という患者さんの不満もわからなくはないのですが、「現物給付」という形での健康保険制度は、本来そうならざるを得ないということなのです。
3.「出来高払い」の問題点
それでは「出来高払い」にはどのような問題点があるのでしょうか。「現物」を「給付」したその対価として(すなわち医療行為を行うと)代金を受け取るのが出来高払いであると前に述べましたが、その医療行為の質や効果については全く関係なく、実際に何がどれだけ行われたかということで支払われるものなのです(これも後述しますが行われた行為についての審査はきちんと行われます)。医療費の額がこのような方法で決められるとなると、医療の「値段」は医療の「質」とは全く関係がなくなってしまいます。
一つ例をあげましょう。虫歯の患者さんが来院されたとします。麻酔をして削ってみたところ、神経を取るかどうかの瀬戸際だったので、高ぶった神経を静める薬を歯に詰めて経過を見たところ何とか神経を取らないで残すことに成功しました。このような行為は後で痛みが出る場合がありますので、それを嫌う歯科医師ははじめから神経を取ってしまうこともあります。当HPでも説明しているとおり、むやみに神経を取ることはかえってその歯自体の寿命を縮めるものですから、慎重に行う必要があるのではないでしょうか。ところが前者の行為(保険用語で覆罩=ふくとうといいます)は保険点数にして25点(250円)、一方後者の行為(同じく抜髄といいます)は根の本数によって違いますが210~500点(2100~5000円)という信じられないほどの点数の開きなのです(この保険点数は平成14年1月現在のものです)。
また、同じ神経を取る行為を有能な歯科医師が誠実に取り組んだ場合でも、逆に能力のない歯科医師が不誠実に取り組んだ場合でも、健康保険ではその経済的評価は全く変わらないのです。健康保険の規則に反しない限りで、たとえ患者のためにならなくてもどんどん検査をし、薬を出し、いろいろな処置をすると医師の収入は増えるような仕組みになっているのです(実際、最近の医科では無駄な検査や投薬が問題となっており、これらが医療費を上げているばかりでなく、耐性菌を生み出したり、患者の抵抗力を奪ったりしているといわれています)。逆に保険で認められていても、不必要な検査や投薬や処置は一切行わないという方針で診療に従事していると、その医師の収入は低くなってしまいます。そんなわけで、健康保険が「出来高払い」を採用している限り、医療費の額をどんなに詳細に検討してみても、それを公正かつ適正にするには非常に困難であるといえるでしょう。
参考図書 「歯の治療費に不満ですか?」 飯塚哲夫著 クインテッセンス出版
「良い歯医者と治療がわかる本」 秋元秀俊著 法研
このように現行保険制度には様々な問題があります。ここで紹介したものの他にも保険の規則の問題、予防行為を認めていないこと、さらに保険と自費に対する厚生労働省の見解などですが、私も少しアツクなってしまいましたので、これらのことは次の次にでも書かせていただき、次回はもうそろそろ確定申告の時期なので、医療費の控除のことでも書こうかなと思ってます。
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- 日時:21:16
