保険と自費の違いについて~その4 歯の治療は「医療」か?
6.保険と自費の違いについて~その4 歯の治療は「医療」か?
1.厚生労働省の見解
さて、前回まで現行保険制度の問題点を明らかにしてまいりましたが、その大親分である厚生労働省は保険制度をどのように捉えているのでしょうか。
現物給付という保険医療の本質を考えると、すべての医療行為が保険の枠内に収まることはないということは今まで述べたとおりですが、厚生労働省は以前から次のようにいっています。「通常必要な歯科診療は、すべて健康保険でまかなえる 」と。なかなか微妙な言い回しではありませんか。裏を返せば、「通常必要でない歯科治療」は保険の枠外から逸脱するということを容認しているようにも思える表現です。では「通常必要でない歯科治療」とは何でしょうか?ある人には必要ではないが、別のある人には必要な診療という意味なのでしょうか?それならその行為はやはり「必要な歯科診療」ではないでしょうか。あるいは「通常必要でない歯科治療」が不必要なものであるならばわざわざいう必要もないわけですし、不必要な治療を容認しているというのであれば、あらゆる医療行政の総元締めである厚生労働省がそのような治療を取り締まらずに放任するかのような発言をするのもゆゆしき問題です。
おそらく、というより確実に、厚生労働省は歯の治療には健康保険でまかなえないものがかなりあると知っているでしょう。そして、そのことをはっきりと言えない理由と思われるものの一つに「国民皆保険制度」があります。現在の日本では、すべての国民は必ず健康保険に加入しなければならないことになっています。このような制度のもとで、安くもない保険料を毎月納めているにもかかわらず、「これは保険ではできない」、「それも保険の給付外の診療」などということになると、国民のほとんどは黙っていないと厚生労働省は想像するのではないでしょうか。
2.歯の治療は「医療」である!
また、厚生労働省は歯の治療を医療と考えていない節があります。それは、以前に次のような説明をしたところからも見て取れます。「家の造りにはプレハブもあれば鉄筋もある。今の世の中では鉄筋や総檜は贅沢だが、木造ならまあまあだ。歯の治療もこれと同じように、金や白金を使うのは自分のふところでまか なってもらい、通常の治療(木造)なら保険でできるはずです」と。
厚生労働省は「いい治療」と「まあまあの治療」があると考えているといっても良いでしょう。このような考え方自体はそんなに特殊ではありませんし、多くの患者さんやあるいは歯科医師までもがこのような考えを持っているようです。しかし、このような考え方自体が歯科医療の本質をどれだけ歪曲しているか計り知れないのです。
あらためていうまでもなく、歯の治療は「医療」です。たとえばあなたが盲腸の手術を受けるとき、手術前に医師に「うちの手術は松・竹・梅と3種類ありますが、どれにしますか?」と聞かれたらどう思うでしょうか。医師はいろいろある手術のうちから、適当に見つくろってやり方を決めるということはあり得ません。常に自分の能力の範囲内で、その症例に最良と思われる治療法を選択すべきであるし、その治療方法は保険の給付内外にかかわらず、ただ一つであるはずです。歯の治療にも同じ事がいえるのです。何が必要な治療か、何が患者のためになる診療かということを問わなければ、厚生労働省のいうことも間違いではないでしょう。しかし、ここで問題になるのは何がいい治療で、何が十分な治療かということなのです。このようなことは、当然歯科医学的見地から判断されるべきもので、保険の基準で決められるべきものではないのではないでしょうか。
小泉内閣は構造改革の名の下に、社会保険本人の負担率の増大(3割負担)、老人医療の窓口負担の増大、政府管掌健保の保険料増大など、保険医療改革も着々と進行させています。しかし、窓口負担の増大だけでは、現行保険制度の本質は何も変わらないのではないでしょうか。
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