保険診療の基準とは?
その3 保険診療の基準とは?
今まで2回にわたり保険と自費の違いについて書いてきました。今回は保険診療の基準について詳しく述べたいと思います。
1.保険診療の基準はどこにある?
日本の現行保険制度の基本は「現物給付」と「出来高払い」であると、「その2」の中で述べました。つまり、患者さんがどこか具合の悪いところがあった場合、保険証を持参して保険医療機関へ行き、そこで「医療」という現物を給付してもらい、そのかわりに保険医療機関は行った処置に応じて報酬を受け取るということです。
では、保険診療ならば何をやっても良いのでしょうか。当然そんなことは許されることではなく、そこに基準が存在します。多くの人は、ほとんどの人が保険診療を受診しているのだからその基準は歯科医学上適切なものである、と想像するでしょう。ところが残念なことに、保険診療の基準は歯科医学に基づいたものではなく、むしろ保険の決まりに基づいたものであるのです。患者の治療は、保険の収入を得るための決まりを基準に進められているのです。その決まり(約束事と言い換えても良いでしょう)も、元々は歯科医が作っていますから、歯科医学を大きく無視したものではありませんが、いかんせん古くなっており、現代の歯科医学にはマッチしておりません。また、はじめから甚だおかしい決まりも数多くあります。歯科医がこれらの決まりを無視すれば何の問題もないのでしょうが、そういうわけにはいかず、多くの場合患者の口の中の診断よりこの種の決まりに振り回されてしまう傾向にあるのです。
2.保険診療の監督者は誰?
保険診療が行われた場合、それが正しく約束事にのっとっているかどうかの監督者が存在します(そうでないと何をやっても良いことになってしまいますから)。約束事の細かいことは専門家でないとわからないので、その監督者(審査員といいます)も厚生労働省の管轄のもと、医者や歯医者が行っています。このように書くと、一般の人々は、お手盛りの審査になるだろうと想像しても不思議ではありません。しかし、実態はそうではありません。保険診療の審査員は、同僚の医者・歯医者に対して時に非常に厳しく警察官にも裁判官にもなるのです。そのため我々歯医者は、患者さんをどう治すかより「これは保険で認められるか、そうでないか」を常に考え、神経をとがらせるのです。逆にいえば、保険の約束事を守っている限り、歯科医学的に正しくない処置でも保険診療として認められるということです。
保険診療の最大の問題は材料が粗悪なことではありません。報酬が少ないために処置が粗雑になることでも、見かけの良い処置ができないことでもありません。現物給付と出来高払いにより、患者さんの生涯の健康に対する医療人としての倫理観が失われやすいということが最大の問題なのです。
3.健康保険は疾病保険?
現行保険制度にはもう一つの大きな問題があります。前にも述べましたが、予防行為がほとんど認められていない、という点です。私が歯医者になって十数年が経ち、その間数多くの患者さんのお口の中を診てきましたが、これだけはいえるということは「歯科医療は予防第一である!」ということです。虫歯でいえば、あいた穴を埋めることよりも、虫歯ができた原因を除去しそのリスクをコントロールすることの方が重要だし、歯周病でいえばプラークコントロールが非常に重要であり、悪くなった歯茎の手術等はそれに付随するべき処置なのです。しかしながら、現行保険制度ではこれらの予防行為が取り入れられてないか、あるいは非常に低い評価にとどまっています。
具体例を挙げましょう。虫歯のリスクをコントロールするにはその患者さんのどこに原因があるのか調べなければいけませんが、そのようなリスク検査は現在のところ(平成14年4月)保険外診療となっています。歯周病の原因菌の特定検査についても同様です。プラークコントロールに関しては保険で認められていますが、1ヶ月に1回、15分以上行った場合(15分でも5時間でも同じ評価です)に800円となっています。歯石の除去についても保険で認められていますが、1本の歯につき平均600円です。熟練した歯科衛生士が完全に歯石を取るのに1時間に1~2本しか取れない場合もあり、そのような場合は明らかに経済的評価が低いと思われます。「真面目にやるだけ損」と考える歯医者がいても全く不思議ではない状況なのです。定期検診も歯科では非常に重要と考えられていますが、これについても今年4月の保険改正で初めて認められ、しかもかなりの条件付きなのです。
このように現行の保険診療では疾病の予防をすることはままならず、むしろ悪くなるのを待って治療をして、またさらに悪くなったら治療をするという診療方法を助長する傾向を持っているのです。これでは健康保険とは名ばかりで、その実態は疾病保険と揶揄されても仕方ありません。100人の健康な口を守ることよりも、一人のひどい虫歯により多くの医療費がかかってしまうという矛盾を、国はどう考えているのでしょうか。
今回でこの項は終わりにしようと思ったのですが、無理でした(ちょっと疲れました!)。続きはまた次回に、、、。
- 投稿者:
- 日時:20:45
